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すべては、
ひとつの点に閉じ込められていた。
無限の密度、無限の温度。
時間も空間も、まだ始まっていない。
ただ、完全な均衡がそこにあった。
けれど、
量子の世界に、完全な静止は存在しない。
ほんのわずかな、
エネルギーのゆらぎ。
それは、
確率の波が、ほんの一瞬、偏っただけ。
でもその偏りが、
真空の相転移を引き起こした。
そして、
宇宙は膨張を始めた。
インフレーション。
光よりも速く、
空間が、何もないところに広がっていく。
その中で、
ゆらぎは引き伸ばされ、
凍りついたように定着した。
それが、
星々の密度差となり、
銀河の骨格となり、
命のゆりかごとなった。
この瞬間、
宇宙は“情報”を持ち始めた。
完全な均衡に、
最初の非対称が刻まれた。
それが、
“はじまりのしずく”。
音もなく、光もなく、
ただ、存在が生まれた。
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