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FDTD法とは 第2章

 

FDTD・FDTD法の詳解目次
第1章 FDTD電磁波解析の基礎用語
第1節 支配方程式・微分・差分
第2節 メッシュ・離散化・計算時間
第3節 励振源・境界条件・収束判定・解析の実効値
第4節 解析事例(マルチモードキャビティによる加熱)
 
第2章 FDTD電磁波解析を用いた研究計画
第1節 シミュレーションプラン
第2節 結果までの難所
第3節 プラン作成実践
第4節 解析事例(マルチモードキャビティによる培地加熱)
 
第3章 FDTD電磁波解析と仮定
第1節 マクスウェル方程式が仮定していること
第2節 分極の振る舞いに関する仮定
第3節 FDTD法に関する仮定
第4節 解析事例(2つの位相制御ポートを持つ円筒キャビティ)
まとめ FDTD法で仮定されていることと注意点・対処
 
第4章 FDTD電磁波解析結果の報告・発表・論文化
第1節 妥当性の主張文例
第2節 シミュレーション結果の提示
第3節 報告書・プレゼンテーションについて
第4節 解析事例(NaCl水溶液のマイクロ波加熱)
まとめ シミュレーションの妥当性に関する注意点・対処
 


 

第2章 FDTD電磁波解析を用いた研究計画

 

第2章 第1節 シミュレーションプラン

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シミュレーションプラン
シミュレーションを活用するための具体的な手順とトラブルシューティングを学びます。ここでいう「手順」はソフトウェアの操作手順ではなく、有用な結果を得るためのシミュレーションプラン作成を指します。
プラン作成では、計算時間の増大や低い収束性、発散、意図しない解析結果など様々な問題を回避する必要があります。この章では、これらの発生を避けるプラン作成法を学び、結果に繋げます。
シミュレーションソフト購入時に操作慣熟を目的にチュートリアル的な解析を行い、結果を得る流れを確認することが一般的ですが、プラン作成はそれとは異なります。
シミュレーションプランは最初に解析対象を把握し、どのような結果を得るかを設定します。その結果を得るための解析対象モデル化、解析手法、得られた結果の可視化・定量化するかを決定する過程がプラン作成です。この説明では抽象的すぎて何をどうするか分からないと思います。次節より具体的なプラン作成を説明します。

解析対象・主旨の把握

 
  • 解析対象は何を目的としたもので何故電磁波解析を行うのか
  • 定量的解析と定性的解析のいずれか
  • 時系列データが必要か
  • 解析領域内で解析結果に最も影響する要素は何か
  • パラメータサーベイを行う場合は何がパラメータで何を調べるのか
  • シミュレーションがメインの研究か、シミュレーションは何かの裏付けに使うのか
解析対象の形状や材質を把握することは最低限度必要ですが、これだけではシミュレーションプランはできません。解析対象のどの要素がシミュレーションしたい現象にどの程度影響するかを見積もることが重要です。
解析結果に影響の少ない要素のモデル化は簡略化し、結果を得ることに集中する事が重要です。従って解析の目的あるいは主旨を強く意識することが有用なシミュレーションプラン作成のカギになります。
またパラメータサーベイを行う場合には、すべてのケースでメッシュを同じにしてメッシュ依存性の考慮が必要ないモデルでシミュレーションするなど、先を見越したプラン作成が必要です。
 
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第2章 第2節 結果までの難所

 

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結果までの難所 解析時間

 
電磁波シミュレーションは非常に計算量が多く、コンピュータの性能を駆使した技術です。コンピュータの処理速度は2年で2倍になるというMooreの法則として知られ、急速に高度化しています。
一方で現在でも解析時間は常に問題です。シミュレーションの計算量が解析空間の「体積」に依存するためです。解析速度が2倍になっても各辺1[m]の立方体が1.26[m]の立方体になる程度にしか拡大できません。
解析時間を短縮する最も根本的で重要な事はメッシュの削減です。メッシュ数の減少はメッシュ幅の増加を伴い収束までの解析ステップ数を減少させる効果もあります。3次元解析の場合各方向のメッシュ数を80%減じると解析時間は40%程度短縮されます。
またメッシュ幅の増大は解析の安定性にも寄与します。空間解像度が低下するため精度の低下は避けられませんが、実用的な精度と計算時間の短縮のバランスをとることが大事です。
解析モデルのメッシュ数を減らす場合の注意点は薄板や容器の壁面などが再現できなくなる場合がある点です。この場合には解析結果に大きく影響しない範囲で、薄板や容器の壁面の厚みを厚くして、減じたメッシュでも形状が再現できるように調整します。

結果までの難所 物性値

 
電磁波シミュレーションを行う場合には、想定する波長・温度における物性値の取得が必要です。最低限誘電率と透磁率の値が必要ですが、扱っている物そのもののこれらの値を見つけるのは意外と難しいものです。
誘電率・透磁率データベースでは2000物質60000件以上のデータを保持していますが、データが見つからないことも少なからずあります。究極的には測定が必要ですが、研究の本題から外れる場合は類似物質からの類推も一般的な選択肢です。なお透磁率は磁性を持たない物質の場合ほぼ1で間違いありませんが、磁性体、反磁性体の場合にその値を知るのが難しいのは誘電率の事情とそう違いありません。

結果までの難所 低い収束性

 
FDTD法による電磁波解析でいう「収束性」はFEMなどで言われる反復解法における残差が十分に小さくなることを持って判断する収束とはやや異なります。FDTD法は時間進行法なので各計算ステップにおける電磁界分布は常に正しいと言えます。
一方で実験などで測定される電磁界はマイクロ秒単位で変化する電磁界ではなく実用的な時間(例えば1秒とか)スケールを持ちます。この時間スケールでは電磁波は対象の領域に十分行き渡って、各位置で定在波が観測されます。
FDTD法は電磁界がない状態に電磁波を入射し、電磁波の伝搬をシミュレートし、最終的に定在波の分布を得ます。解析領域や解析対象によっては実質の伝搬成分が見えなくなってすべての位置で定在波が観測される状態になるまでに時間がかかる場合があり、このようなケースを収束性が悪いと呼んで極力避けるようプランを調整します。
物理現象として収束が遅い場合には、メッシュを減らすなどして同じ計算時間でも解析ステップを多く実行できるようにするのが一般的です。また薄い・細い・鋭い形状を含む解析は一般に収束性が悪くなります。この場合は解析の主旨に反しない範囲で形状を少し、厚く・太く・鈍くすることで収束性が改善できます。

結果までの難所 発散

 
FDTD法は比較的安定した計算手法ですが様々な原因で解析が物理的な意味を失う「発散」が発生します。主な原因は、メッシュ密度の不足、不適切な境界条件の設定の2つです。
前者については解析領域内部の最短波長λとしてメッシュ幅がλ/10を超える場合に発生することがあります。この時のλは誘電率及び透磁率を考慮した波長短縮後の値を用いる必要があります。自由空間の伝搬波長を用いてメッシュ密度が不足する設定をしてしまわないことに注意が必要です。
後者は物体と物体の隙間にメッシュが1メッシュしか含まれない場合などに発生しやすく、この傾向は物体が金属(PEC)の場合に顕著になります。また解析領域の端部近傍に配置された励振源なども発散の原因となります。
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第2章 第3節 プラン作成実践

 

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プラン作成実践 物性値

 
シミュレーションで対象とする周波数における物性値が分かっていれば良い場合と周波数分散を考慮する必要がある場合の2つに分けられます。前者は「単一周波数の正弦波入力」で「誘電率が正」であることが条件です。
パルス入射の場合や誘電率が負になる場合は周波数分散を考慮する必要があります。例えば水は誘電率が正ですが、これに塩を加えてイオン溶液化するとある濃度から誘電率が負になります。この場合は周波数分散を考慮したモデルを導入して誘電率をモデル化する必要があります。

 

プラン作成実践 解析領域と対象形状

 

 
解析領域が大きくなればなるほど計算時間は当然増大します。アンテナの放射特性など十分遠方での特性が重視される場合にはFDTD法を用いた遠方界解析を行います。
一方キャビティ内の加熱・照射問題では解析領域はキャビティ寸法で決まっているので迷うことがありません。解析領域が問題になる例は近接場と遠方界の間の特性を知りたい場合で例えば自動車のレーダーシミュレーションなどがこれに該当します。この場合は遠方界ではなく波長の数十倍~数百倍の範囲で電磁波分布を確認する必要があるため、遠方界近似は使えず解析領域を大きくする以外に方法がありません。
また解析対象の形状が波長に比べて非常に小さい場合や極端に大きい場合は対策を講じる必要があります。非常に小さい場合の方が一般的で、マイクロ波帯では薄板や容器の厚みなどがそれに該当します。この場合は解析結果に大きく影響しないことを考慮しながらこれらの厚みをシミュレーションモデルでは厚くすることでメッシュ数の増加を回避します。

プラン作成実践 テスト解析とリソースの考慮

 
  • テスト解析は多くの場合で必須
  • 同じCPUタイプやメモリ容量でも数値解析の場合デスクトップPCの方が圧倒的に有利
  • 優位な解析環境を利用する前にテスト解析を行うことで余計な課金を避けることが可能
  • デスクトップPCによる電磁波解析は依然として最も一般的で成果を挙げている
プラン作成を行う際に、使用メモリ容量と解析速度の確認が必要です。また解析モデルにおけるポイントを把握するために、中規模以上の解析では解析対象の大枠のみをモデル化し、メッシュ密度を低減したモデルを用いた「テスト解析」を行います。テスト解析で得られた情報を元に最終的に目標とする解析モデル・条件をどのように設定するかを検討します。
ハイエンドデスクトップPCで解析を行う場合には、解析の限界は50Mメッシュ程度ですが、実用的な範囲では10Mメッシュが一つの目安になります。非力なノートパソコンの場合は2~4Mメッシュ程度に抑えるのが良いでしょう。
GPUやスーパーコンピュータを用いることが出来る場合はそれらの計算時間が目安になります。これらの先進的な計算環境もかなり一般的になってきたとはいえ、まだまだデスクトップPCでの解析がメインであることは間違いありません。

 

プラン作成実践 物理量の出力

 
  • 電磁波解析で求めているのは電界、磁界のみ
  • 加熱量分布、電流、ポインティングベクトルなどは電磁波シミュレーションで得られた電界、磁界から求められる
  • FDTD法を用いたシミュレーションでは結果として得たい物理量は解析以前に指定する必要があることが多い(時間を遡る計算は困難なため)
  • 時系列データが必要な場合は予め保存する設定が多くの場合必要(同じく時間を遡る計算は困難なため)
多くの場合シミュレーションの最終結果としてどのような値を得るのかを決めておく必要があります。電磁波解析では時間平均された電磁界分布を図化処理するのが一般的です。一方で例えば複素電流、実効ポインティングベクトルは時間平均電磁界からは求められません。従って予め電流と位相を求めるよう設定します。また反射率や透過率を求める場合も予め設定が必要な場合があります。つまり予め何を求めるかプラン作成時に決定します。
 
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第2章 第4節 解析事例

 

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マルチモードキャビティによる培地加熱

 
例題としてマルチモードキャビティでポリスチレン製のシャーレに入った液体培地に2.45GHzでマイクロ波照射する系を取り上げます。キャビティ内部は37℃に保たれているものとします。主目的は液体培地内部の温度分布を検討するために電界・加熱量分布が一様なのか、不均一なのかを確認することです。
なおこのタイプのキャビティの場合、多くの場合同軸ケーブルで給電され内部に配置されたパッチアンテナでマイクロ波照射します。このモデル化は少々難易度が高いので、ここではパッチアンテナに相当する位置に配置されたTE10モードの導波管からマイクロ波照射するモデルでテスト解析を行うこととします。

物性値の取得

 
物性値取得のポイントは電磁波の波形、周波数、温度です。波形については多くの場合は正弦波を用いるのでこの場合は特別の考慮は必要ありません。一方、パルスや変調波の場合では多くの場合物性値の分散モデルの使用が必要です。
FDTD法ではマクスウェル方程式を解いていますが、この方程式の物性値は一つの周波数に対する固定値を仮定しています。パルスや変調は周波数スペクトルが存在するため、この考慮のために分散モデルを使用します。
また電磁波解析で用いる複素誘電率は周波数や温度に依存します。解析目的の電磁波の周波数・温度における値を取得する必要があります。
なお樹脂のような高分子は重合度や成型法によって誘電率の値が異なる場合や異方性が存在する場合もあります。このためメーカー提供の値があればそれを用いますが、シミュレーションの現場では代表的な値を探して代用するのが一般的です。

モデルの作成

 
  • 使えるメッシュは2~3Mメッシュ
  • 解析領域内で最も小さな形状はシャーレの厚み
  • 厚みを完全に再現すると完全にメッシュ不足
  • 解析領域内で最も誘電率が高いのは培地
  • 培地の誘電率εから考えた波長λに対してメッシュ幅
  • 解析領域のサイズから考えて各方向のメッシュ分割数を考える
  • 「メッシュが多い方が高精度」はほどほどに
テスト解析ということで、解析モデルのメッシュ数を2Mメッシュ程度に抑え、解析時間を短縮したいところです。シャーレの材質の厚みは1[mm]以下なのでこれを再現しようとするとこの上限を超えてしまいます。シャーレの厚みは解析結果に大きく影響するでしょうか。この厚みをどのようにモデル化するかがポイントです。
同時にメッシュ数あるいはメッシュ幅が満たさなければならない条件も存在します。メッシュ幅は波長λの1/10よりも小さい必要があります。この時の波長は解析領域の最も誘電率の高い位置での波長を考慮します。今回の解析対象では培地の誘電率が最も高く、この位置における波長のλ / 10以下になるメッシュ数を設定しなければなりません。

境界条件と出力の設定

 
今回の例題では境界条件の設定はキャビティの壁面が解析領域境界面に等しい面は金属ですから設定は自明です。なお導波管でマイクロ波を照射するモデルの場合、電磁波の進行方向と反対側の境界条件は吸収境界条件を設定します。
この時、PML(Perfect Matched Layer)はその名の通り、入射するマイクロ波に対して完全に整合が取れてかつ損失の大きい層(Layer)を用いるので実質的なメッシュ数の増大を伴います。多くの場合PMLは6~12層程度のLayerを用いるので、これを含めてメッシュ数が上限を超えないように設定する必要があります。
PMLは一般的な手法では最も精度が良いため、多くの研究で用いられていますが、計算時間の増大を伴うため必ずしも第一選択肢として考える必要はありません。特にキャビティ内部の解析の場合、MUR1でも比較的良好な特性が得られます。一方でアンテナ解析などで遠方界を求めるような解析ではPMLの使用が一般的です。
また時間平均された加熱量分布はソフトウェアによっては初期設定では出力されません。加熱量分布は「損失」または「SAR」などの変数名で設定する場合もありますので注意してください。

 

図化処理(コンター)

 
シミュレーション結果を文書化する際に頻繁に使用されるのが電磁界の強度やSARを色やコントラストで表現したコンターです。コンターは平面上の分布を視覚的にかつ定量的に把握できる点で非常に優れています。
コンター使用時の注意点はカラーで出力した画像をモノクロまたは2色、3色刷りの印刷物で使用しないことです。カラーのコンターは赤色に大きな値、青紫色に小さな値を割り当てるのが一般的です。これをモノトーンにすると大きな値と小さな値共に濃い色で印刷されるため、非常に紛らわしい図表になります。
また多くの図化処理ソフトでは実際のメッシュ解像度で描画することは一般的ではなくメッシュ間の補間処理を行ないます。(左の図)本来の解析結果を提示するという意味では補間された描画よりもメッシュの密度が反映された描画を用いるべきであると考えています。(右の図)
論文や印刷物の仕上がり具合を考慮して、それに合わせて最初から図化処理する必要があります。

 

図化処理(ラインコンター)

 
ラインコンター(マルチモードキャビティによる培地加熱)
ラインコンターは等値線のことです。コンターと同様、シミュレーション結果の図化処理では頻繁に使用されます。コンターに比べると値の把握が直感的には分かりにくい一方、モノトーン画像でもコンターで発生する問題は避けられます。またコンターよりも値の傾きを等値線の間隔から把握しやすいという大きなメリットがあります。
値の把握には上の図のように線の濃さを変更するケースや、ソフトウェアによっては等高線に小さな文字で値を追加できるものもあります。上記の図は線の濃さを変更した図です。
等高線に値を追加した図を使用する場合、印刷時の大きさを考慮して文字の大きさを調整しなければなりません。また.pngや.jpeg等のデータを用いた場合には文字も画像として扱われるために印刷時に判読できない可能性が高くなる点に注意が必要です。
 
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