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FDTD法とは 第4章

FDTD・FDTD法の詳解目次
 
第1節 支配方程式・微分・差分
第2節 メッシュ・離散化・計算時間
第3節 励振源・境界条件・収束判定・解析の実効値
第4節 解析事例(マルチモードキャビティによる加熱)
 
第2章 FDTD電磁波解析を用いた研究計画
第1節 シミュレーションプラン
第2節 結果までの難所
第3節 プラン作成実践
第4節 解析事例(マルチモードキャビティによる培地加熱)
 
第3章 FDTD電磁波解析と仮定
第1節 マクスウェル方程式が仮定していること
第2節 分極の振る舞いに関する仮定
第3節 FDTD法に関する仮定
第4節 解析事例(2つの位相制御ポートを持つ円筒キャビティ)
まとめ FDTD法で仮定されていることと注意点・対処
 
第4章 FDTD電磁波解析結果の報告・発表・論文化
第1節 妥当性の主張文例
第2節 シミュレーション結果の提示
第3節 報告書・プレゼンテーションについて
第4節 解析事例(NaCl水溶液のマイクロ波加熱)
シミュレーションの妥当性に関する注意点・対処
 

 

第4章 FDTD電磁波解析結果の報告・発表・論文化


 

第4章1節 妥当性の主張文例

 

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妥当性の主張ー支配方程式

 
 
文例1 conventional-FDTDの場合
 

支配方程式を(eq.1.b), (eq.1.d)としD = ε0EH = 1/μ0Bの関係を用いて電界E及び磁界Hの方程式に書き換えた2式を以下の手法で解いた。

 
文例2 RC-FDTDの場合
 

支配方程式を(eq.1.b), (eq.1.d)とし電束密度Dを電界の畳み込み積分を帰納的に求めるRC ( Recursive Convolution )法を用いて電界Eで表現し、磁束密度BH = 1/μ0Bの関係を用いてHで書き換えた2式を以下の手法で解いた。

 
文例3 RC-FDTDの場合(英文)
 

RC-FDTD (Recursive Convolution – Finite Difference Time Domain method) is applied in simulations. The governing equations of RC-FDTD are (eq.2) and (eq.3).

(eq.2) is rewritten into time difference form (eq.4) considering BH. In RC-FDTD to consider dispersive properties electric flux density D is obtained by recursive convolution. When ε’(ω)-ε’’ (ω)=ε+Χ(ω), current density J=0 and electric conductivity σ=0 are assumed (eq.3) is rewritten as time difference form (eq.5).

Because constant permeability is assumed (eq.4) is same as conventional FDTD method. Here the summation of 2nd term of right hand side of (eq.5) is replaced by recursive accumulator Φn-1 and (eq.5) rewritten by (eq.6).

Χ0 = X10+ X20+ X30 and Φn-1 are calculated from linear summation of recursive accumulators corresponding to each dispersion model. The reference describes details.

商用のソフトウェアを用いてシミュレーションを行って報告書や論文に纏める際に「ソフトウェア名と使用モジュール名を記載して終わり」という文書を散見します。これはソフトウェアを所有しない人にとっては無用の長物ですし、「再現性の確保」という点で不十分です。少なくとも支配方程式は記載するべきです。
Maxwell方程式は巨視的な電界E及び電束密度D、磁界H、磁束密度Bの空間と時間における関係を示しています。FDTD法による電磁波解析の支配方程式は上記4式のうち、Faraday-Maxwellの式(eq.1.b)とAmpere-Maxwellの式(eq.1.d)です。
この2式で4つの物理量、電界E及び電束密度D、磁界H、磁束密度Bを求めているわけではなくconventional-FDTD法ではD = ε0EH = 1/μ0Bの関係を用いて電界E及び磁界Hの方程式に書き換えて2式で方程式を閉じています。物性の分散性を扱う場合はこの単純な関係を用いることが出来ないので後述するRC-FDTD法を用いますが、この場合も電界Eと磁界Hの方程式を解いていることは共通です。
シミュレーション対象の現象を物理的に記述する支配方程式の記載は論文・報告書などでは必須です。

妥当性の主張ー物性値または物性モデル

 
 
文例1 固定物性の場合
 

物性値の決定に関して、系の温度20℃、励振源の周波数2.45GHzを想定した。キャビティの金属は完全導体を仮定した。容器のパイレックス製ビーカーはメーカー提供のカタログに記載された複素誘電率ε’-jε”=4.6 – j0.023を与えた。水は複素誘電率ε’-jε”= 79.1 – j7.8とした。

 
文例2 分散性を考慮した場合
 

周波数2.45GHz、温度20℃に対応する電解液の複素誘電率は Debye モデルと Drude モデル(eq.1)でモデル化した。

分散パラメータは ε∞ =12.4 、 ∆ε = 72.8 、 τ0=1.36×10-11 [sec] 、 ωp = 1.46×1011 [rad/sec] 、 νc = 3.64×1010[rad/sec]とした。

 
文例3 分散パラメータをtable表示した例(英文)
 

Dielectric constant for water and Intracellular Water ( IW ) are modeled by tri-pole function (eq.1). This function includes a pole derived from slow Debye relaxation, one from fast Debye relaxation and one from Lorentz relaxation.

Parameters in (eq.1) are first calculated by fitting the equation to the dielectric properties measured with least squares assumptions. To improve the agreement between the properties obtained by (eq.1) and experimental value around 1THz, parameters are adjusted manually. Obtained values are shown in Table.1.

シミュレーションで与えた物性を明示することは非常に重要です。マイクロ波領域の場合は一般的に複素誘電率を記載します。複素誘電率の虚部の記載はtanδで置き換えることも可能です。
複素誘電率は多くの物質で温度と周波数に対して依存性があります。このため固定物性値を使用した場合には想定した温度と周波数を記載するべきです。
周波数依存性を考慮した場合には使用した分散モデルを記載し、その中に含まれる分散パラメータを記載します。文例2の様に本文中に分散パラメータを記載するのが一般的ですが、分散パラメータが多い場合には文例3のようにtableを作成して示すことも一般的です。

妥当性の主張ー離散化とメッシュ、タイムステップ

 
 
文例1
 

解析領域は150×150×20[mm]の矩形領域とし、1[mm]の厚さ形状を十分再現できるよう300×300×40セルのメッシュを生成し解析に用いた。またこのメッシュでCFL数が0.5となるようタイムステップΔtを設定した。

一般的にメッシュに関しては解析領域と3次元方向のセル数または格子点数を示します。メッシュの妥当性は波長λを基準にメッシュ幅がλ / 10~20以下であり、解析領域内の形状を十分再現できる密度があることです。
解析に使用したメッシュは解析のモデル図と共に提示するのが望ましいです。特に再現すべき形状に対してどの程度の密度でメッシュが確保されているか直感的に理解できる図は重要です。
上記の例は等間隔メッシュの場合の例ですが、不等間隔メッシュやメッシュの一部分が細かいサブグリッド法などを用いた場合はそれらが理解されやすいように図と文章で説明することが重要です。
時間進行法であるFDTD法ではタイムステップも重要な情報です。タイムステップの値そのものを示すよりもCFL数を示す方が一般的です。

妥当性の主張ー境界条件

 
境界条件
 
文例1 キャビティ内部解析の例
 

導波管を導入したX方向負側の解析領域端部は12層のPMLからなる吸収境界条件とした。キャビティ内部壁に相当するその他の解析領域端部は完全導体壁を仮定し境界条件とした。

電磁波シミュレーションで用いられる境界条件は主に上に示した3種類です。MUR1及びPML(Perfect Matched Layer)は電磁波の反射を0にする条件として定式化されているため吸収境界条件と呼ばれますが実際には解放をモデル化する場合に使用されます。
完全反射反射条件PEC(Perfect Electric Conductor)は入射した電磁波を完全反射する条件です。導波管やキャビティ壁面はこの境界条件でしばしばモデル化されます。理想的な(導電率∞の)導体を仮定しているために、壁面での損失をシミュレートすることはできないので注意が必要です。
また周期的な構造を持つ電波吸収体のようなものをシミュレートする場合には周期境界条件を使用します。周期境界条件を用いると1周期の解析領域を計算するだけで、無限に同じ構造が続いていることを模擬できます。構造が距離を置いて存在する場合には、構造と解析領域境界の距離は構造同士の距離の半分になるように配置することに注意が必要です。

妥当性の主張ー収束性の確認

 
 
文例1 ある点の電界強度の時系列データを示して収束性を示す
 

解析領域中心部における電界成分Eyの値が励振周期で一定の振幅で変化することを確認し約5000ステップで一定の電磁界に収束したことを確認した。

FDTD解析は時間進行法であり求められる物理量は時々刻々変化します。このような状況で解析領域内に十分電磁波が行き渡り、系全体が周期的な変化をしていること、つまり収束性を確認するためには解析領域内の代表的な点で周期的に変化する値が得られていることを確認します。
収束(convergence)という言葉は一般的には反復計算法、例えば有限要素法(Finite Element Method)における逐次過緩和法(Successive Over Relaxation Method)などにおける残差が十分に小さくなることを指します。FDTDでも同じ言葉を使用していますが、物理的な意味はかなり異なりますので注意が必要です。
なおFDTD解析の場合、収束していない結果は「間違い」ではなく「過渡状態」を表します。パルスの解析などでは収束の概念そのものがないのでこの点は十分区別する必要があります。
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第4章第2節 シミュレーション結果の提示

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図化処理(コンター)

 
シミュレーション結果を文書化する際に頻繁に使用されるのが電磁界の強度やSARを色で表現したコンターです。コンターは平面上の分布を視覚的にかつ定量的に把握できる点で非常に優れています。
コンター使用時の注意点はカラーで出力した画像をモノクロまたは2色、3色刷りの印刷物で使用しないことです。多くの場合、カラーのコンターは赤色に大きな値、青紫色に小さな値を割り当てられます。これをモノトーンにすると大きな値と小さな値共に濃い色で印刷されるため、非常に紛らわしい図表になってしまいます。(下の図)論文や印刷物がモノトーン印刷の場合それに合わせて最初から図化処理する必要があります。(上の図)

図化処理(ラインコンター)

 
ラインコンターは等値線のことです。コンターと同様、シミュレーション結果の図化処理では頻繁に使用されます。コンターに比べると値の把握が直感的には出来にくいですが、モノトーン画像でもコンターで発生したような問題は発生しにくい点がメリットです。またコンターよりも値の傾きを等値線の間隔から把握しやすい点もメリットです。
値の把握には上の図のように線の濃さを変更するケースや、ソフトウェアによっては等高線に小さな文字で値を追加できるものもあります。上記の図は線の濃さを変更した図です。
等高線に値を追加した図を使用する場合、印刷時の大きさを考慮して文字の大きさを調整する必要があります。また.pngや.jpeg等のデータを用いた場合には文字も画像として扱われるために印刷時に判読できない可能性が高くなる点に注意が必要です。

シミュレーション結果の図示-グラフ

 
電界のグラフ表示
コンターやラインコンター(等高線)は2次元の分布を直感的に理解しやすいという利点がある一方で定量的な把握に向きません。定量的な把握にはグラフが最も向いています。
グラフの描画は1次元方向に限られるというデメリットがありますが、複数の系列を同じグラフに描画することで系列ごとの定量的な比較が容易であるという大きなメリットがあります。
シミュレーション結果の表示はソフトウェアの仕様がコンターの表示など3D表示が中心になっていますが、最も確かな表現方法はグラフと考えています。(著者の実感+主観ですが、学生時代の師匠にも同じことを言われていました。)

シミュレーション結果の定量化

 
シミュレーション結果の定量化
上の表でĒi,j,kなどの変数の上に‾がついているものは積算を行って得られる値です。FDTD法ではメッシュ各点の物理量を時系列で扱っているために、非常に多くの情報を得ることが出来ます。とはいえ、すべての情報を保存するのはディスク容量の無駄でもあり現実的ではありません。
電界によるマイクロ波加熱問題では電界ベクトルの実効値及びSARのデータが必須で必要に応じて実効Poyntingベクトルのデータを保存します。
一方、アンテナ解析の場合には電磁界強度の実効値に加え位相のデータが必要です。更にアンテナそのもののインピーダンスを検討する場合には複素電流ベクトルのデータが必要であり、保存するべきデータが多くなります。
電波伝送問題ではDUR(Desired Undesired Ratio)が必要ですが電界ベクトルの実効値と電界成分の位相データがあれば複素電界を求めることが出来るため、複素数の形でDURを計算できます。
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第4章第3節 報告書・プレゼンテーションについて

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ー実験と合えばよいというものでもない

ー高度ならよいというものでもない

ー1つのシミュレーションだけでは…

 
「シミュレーションと実験の結果はよく一致し双方の妥当性が確認できた。」という行はシミュレーションを使った研究の論文や報告書の定番ともいえます。この時に「なぜ一致したのか」に言及しない文書が多く、折角の成果が活用しきれていないケースがあります。そもそもシミュレーションと実験が一致する前提ならシミュレーションは不要という意見もあります。
「電磁界と熱流体を連成させた高度なシミュレーションを行い、良好な結果を得た。」という行もあります。電磁界と熱流体の連成は実際非常に高度です。その理由の一つは現象の時間オーダーの違いです。電磁界の時間オーダーは周波数の逆数ですからマイクロ波の場合10-9秒、熱流体は多くの場合秒単位です。つまりこの二つを完全には同時に扱えず、連成には工夫が必要です。また電気的物性値に加えて、熱物性及び流体の粘性を把握する必要があります。これらの内には大きな温度依存性がある物性値もあり、そのモデル化も必要です。CAEとして必要に応じて高度な連成解析を用いるのは有効活用であると考えますが、「研究」目的の場合は扱っている現象及びシミュレーション手法が複雑で得られた結果の活用も難しいと考えています。
またシミュレーションを1ケースのみ行い実験と比較する例も少なくないのですが、これはシミュレーションの妥当性確認には不十分と考えます。可能であれば数ケースのシミュレーションと実験を定性的、定量的に比較して妥当性検証の上、結果を活用するべきです。一つの高度な解析よりも基礎的なシミュレーションの積み重ねの方がしばしば有用な知見をもたらします。

プレゼンテーションについて1

ーアニメーションはほどほどに
 
シミュレーションの結果をプレゼンテーションする場合に、解析結果のアニメーションは強力なツールになります。特に動きの少ないプレゼンテーションスライドの中で動きのあるアニメーションは聴衆を惹きつけます。
とはいえ、アニメーションばかりが続くプレゼンテーションは聴衆にとって目を引きますがプレゼンテーションそのものの印象を薄めてしまうデメリットがあります。効果的に使用するなら10分に1回程度に留めておくのが無難です。
またアニメーションを埋め込んだプレゼンテーションは準備を十分にする必要があります。使用するPCの影響でアニメーションが再生されなかったり、プレゼンテーション会場のスクリーンとアニメーションのアスペクト比が合わず一部表示が切れるなど頻繁に発生するトラブルです。

プレゼンテーションについて2

ーシミュレーションの世界と聴衆の世界
 

シミュレーションが専門の学会では以下に言及しつつ結果の紹介と考察

  • テクニカルタームを使い簡潔な説明に努める
  • 離散化スキームや境界条件
  • 計算環境に関する事項
  • 計算時間など

シミュレーションが専門ではない学会ではポイントは次の通り

  • テクニカルタームを使わざるを得ない部分は思い切って省略して
  • 上記の点は少し少なめにして
  • シミュレーション結果の紹介と考察に時間をかける
研究発表は論文や報告書が先に作成されていることが多く、またそれを元に発表資料やプレゼンテーションを作成するために起こる問題があります。それは論文や報告書に記載した事項をすべてプレゼンテーションに盛り込んでしまうことです。
シミュレーションを活用した論文や報告書では第1節で述べたように、支配方程式の記載から始めて、物性値または物性モデル、メッシュ、境界条件などシミュレーションが再現できる情報を基本的には全て記載します。
一方で時間に限りのあるプレゼンテーションではこの部分に時間をかけると、研究結果の発表時間が不足する可能性もあります。この問題は聴衆に応じてプレゼンテーション内容を変更することで対応しなければなりません。
シミュレーションに詳しい聴衆が多ければ、シミュレーションに関するテクニカルタームを使用して冗長な説明を避けます。一方でシミュレーションに親しみのない聴衆が相手の場合には、シミュレーション手法に関する部分は思い切って短縮または省略する等の工夫が必要です。
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第4章第4節 解析事例(NaCl水溶液のマイクロ波加熱)

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今回はマルチモードキャビティで水とNaCl水溶液(0.6 mol / L – 約3.5%)を加熱するシミュレーションを行います。キャビティにはアンテナで2.45GHz及び5.8GHzのマイクロ波が印加されるものとします。
矩形キャビティを含むW×D×H=225×225×150の直方体領域を解析領域として365×365×243のメッシュを用いて解析を行います。この解析では金属で囲まれた円筒キャビティをモデル化するために解析領域全体を金属(PEC)としてキャビティ内部に空気(Vacuum)の円筒を設定します。また解析の収束性を確認するために解析領域中心にプローブを配置します。
このモデルは非常に単純なモデルですが、様々なチェックポイントがあり見た目以上に奥の深いシミュレーションです。

NaCl水溶液の物性モデル1

 
液体の複素誘電率の実部を横軸、虚部を縦軸にとって角周波数における値をプロットした図はcole-coleプロットと呼ばれます。純水ではcole-coleプロットはほぼ半円になることが知られています。この波長分散性はDebye分散と呼ばれ、FDTD法によるシミュレーションでもDebye分散モデルとして再現できます。
一方電解質水溶液では周波数が低くなるとcole-coleプロットは半円から大きく外れて、複素誘電率の虚部が発散します。これは水に溶け込んだイオンが電磁波に応答し始め、その応答が周波数に対して十分早くなると水溶液は金属的な性質を帯び始め導電率が大きくなります。
この現象は荷電粒子が電磁波に遅れなく応答することをモデル化したDrude分散で記述されます。Drude分散モデルによる複素誘電率のモデル化は可視光帯の金属などで一般的ですが、マイクロ波帯の電解質水溶液の物性モデルとしても利用できます。

NaCl水溶液の物性モデル2

 
純水の誘電物性はε* = 75.9 + j 10.1を与えます。なお波長による違いは、純水の場合高周波数側で複素誘電率の虚部が大きく、侵入厚さが小さいため均一加熱が難しくなることが知られています。
NaCl水溶液の誘電物性は上記の式でモデル化します。上記の式の右辺第1項は周波数が無限大の場合の誘電率の実部、第2項はDebye分散モデル、第3項はDrude分散モデルを意味します。物理的には周波数無限大の誘電率の実部は1ですがモデル定数としては別の値を与えます。第2項のDebye分散モデルでcole-coleプロットの半円上の値をモデル化し、第3項のDrude分散モデルで半円から発散する部分のモデル化を行っています。
この例では分散モデルの線形和で誘電率をモデル化していますが、周波数と溶液の組み合わせ次第で1つの分散モデルでモデル化できる場合も少なくありません。NaCl水溶液はちょうど1~5GHzの範囲で大きく物性が変化するためマイクロ波加熱のシミュレーションでは上記の様に分散モデルの線形和が必要になるわけです。

境界条件と出力の設定

 
今回の例題では境界条件の設定はキャビティの壁面が解析領域境界面に等しい面は金属ですから設定は自明です。なお導波管でマイクロ波を照射するモデルの場合、電磁波の進行方向と反対側の境界条件は吸収境界条件を設定します。
この時、PML(Perfect Matched Layer)はその名の通り、入射するマイクロ波に対して完全に整合が取れてかつ損失の大きい層(Layer)を用いるので実質的なメッシュ数の増大を伴います。多くの場合PMLは6~12層程度のLayerを用いるので、これを含めてメッシュ数が過度に増大しないように設定する必要があります。
PMLは一般的な手法では最も精度が良いため、多くの研究で用いられていますが、計算時間の増大を伴うため必ずしも第一選択肢として考える必要はありません。特にキャビティ内部の解析の場合、MUR1でも比較的良好な特性が得られます。一方でアンテナ解析などで遠方界を求めるような解析ではPMLの使用が一般的です。
また時間平均された加熱量分布はソフトウェアによってはデフォルトの設定では出力されません。加熱量分布は「損失」または「SAR」などの変数名で設定する場合もありますので注意してください。

シミュレーション結果

 
シミュレーション結果の内、代表的な断面の加熱量分布を上の図に示します。純水の場合は電磁波が内部まで浸透し容器の中心部で加熱量が大きくなっていることが分かります。また水は誘電率が高いために水内部で複数の定在波が分布していることも確認できます。
なお数cm~十数cmの円筒型の容器に入った水を2.45GHzのマイクロ波で加熱した場合、容器中心部で加熱量が大きくなるのは円筒がレンズのように振る舞うためです。
NaCl水溶液の加熱シミュレーション結果は特に容器の近傍と水の表面で加熱量が大きく純水の場合と大幅に異なります。これは2.45GHzではNaCl水溶液の電気伝導が始まり、水に入射した電磁波は直ちに損失に変わり内部には浸透できない現象を再現しています。
NaCl水溶液の物性は前述のDebye分散モデルとDrude分散モデルの線形和でモデル化しましたが、この電気伝導に関わる部分はDrude分散モデルでモデル化しています。今回のNaCl濃度は海水程度ですが、もし海水をマイクロ波加熱する場合には純水とは全く異なる物性を持つことに注意が必要ということになります。
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シミュレーションの妥当性に関する注意点・対処

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FDTD解析で習得するのに時間を要するのは、解析に関する理論の理解よりもシミュレーションで有用な解析結果を得るためのプランの策定です。それなりのシミュレーションソフトウェアを使用すれば、多くの場合解析結果が得られて、可視化すればそれなりに「研究をやっている」錯覚に陥ります。
筆者は目的が明確でない、あるいは設定パラメータ等に必然性が感じられないシミュレーションを「やってみましたシミュレーション」と呼んでいます。やってみましたシミュレーションでは様々な条件設定に必然性が薄く、解析結果の妥当性が確認できないことがしばしば。更にその解析結果から読み取れる情報も必然的に曖昧です。
これを避けるため、定性的・定量的いずれの目的があるとしてもシミュレーションを行う場合には、その目的に応じてシミュレーションのプランを立てるべきであると考えています。特に定量的なシミュレーションは予め、何をパラメータとしてどのような結果を得ることが目的か強く意識しない限り、有用な結果を得ることは困難です。
メッシュ数
定性的
定量的
メッシュ幅は波長のλ/20~λ/10程度を目安に。但し波長短縮には注意が必要。薄板などは定性的に問題ない範囲で厚くしてメッシュ幅が大きくても再現できる工夫をする。
把握する現象がどのようなものかによって必要なメッシュ数は大きく異なる。メッシュ密度が高い方が精度は上がるが解析時間が長くなるため、物理的考察に基づいてメッシュを減らす工夫が必要。
テスト解析
定性的
定量的
必ずしも必要ない。
必ず必要。特にパラメータサーベイを行う場合にすべてのパラメータで共通の解析モデル・条件を使用することが望ましいのでその検討のためにもテスト解析は必須。
境界条件
定性的
定量的
吸収境界はMUR1で十分。周期境界条件は積極的に活用する。
吸収境界条件はPML。周期境界条件を用いる場合、解析モデルが解析目的に適っているか検討する。
物性値
定性的
定量的
定数で十分だが、場合によっては分散モデルを検討する。
慎重に検討を要する。温度依存性や波長分散モデルの考慮は必須。
収束性の確認
定性的
定量的
確認するに越したことはないが、単に電磁波の伝搬様式を確認する場合などは必要ない。
過渡状態のシミュレーションでない限りは必ず必要。
図化処理
定性的
定量的
重視する。定量化されたデータがない分、現象を説明するための分かりやすい図化処理が必須。
必要に応じて、作業する。図化処理よりも定量化したデータをどう見せ・説明するかの方が重要な場合が多い。
データ処理
定性的
定量的
必ずしも必要ない。
必須。最終的にどのような定量化手法を用いるかを念頭に置いて解析モデルを作成する必要がある。
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