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解析事例(NaCl水溶液のマイクロ波加熱)

【電磁波解析結果の報告・発表・論文】

解析事例(NaCl水溶液のマイクロ波加熱)

NaCl水溶液のマイクロ波加熱

今回はマルチモードキャビティで水とNaCl水溶液(0.6 mol / L – 約3.5%)を加熱するシミュレーションを行います。キャビティにはアンテナで2.45GHz及び5.8GHzのマイクロ波が印加されるものとします。

矩形キャビティを含むW×D×H=225×225×150の直方体領域を解析領域として365×365×243のメッシュを用いて解析を行います。この解析では金属で囲まれた円筒キャビティをモデル化するために解析領域全体を金属(PEC)としてキャビティ内部に空気(Vacuum)の円筒を設定します。また解析の収束性を確認するために解析領域中心にプローブを配置します。

このモデルは非常に単純なモデルですが、様々なチェックポイントがあり見た目以上に奥の深いシミュレーションです。

NaCl水溶液の物性モデル1

NaCl水溶液の物性モデル1

液体の複素誘電率の実部を横軸、虚部を縦軸にとって角周波数における値をプロットした図はcole-coleプロットと呼ばれます。純水ではcole-coleプロットはほぼ半円になることが知られています。この波長分散性はDebye分散と呼ばれ、FDTD法によるシミュレーションでもDebye分散モデルとして再現できます。

一方電解質水溶液では周波数が低くなるとcole-coleプロットは半円から大きく外れて、複素誘電率の虚部が発散します。これは水に溶け込んだイオンが電磁波に応答し始め、その応答が周波数に対して十分早くなると水溶液は金属的な性質を帯び始め導電率が大きくなります。

この現象は荷電粒子が電磁波に遅れなく応答することをモデル化したDrude分散で記述されます。Drude分散モデルによる複素誘電率のモデル化は可視光帯の金属などで一般的ですが、マイクロ波帯の電解質水溶液の物性モデルとしても利用できます。

NaCl水溶液の物性モデル2

NaCl水溶液の物性モデル2

純水の誘電物性はε* = 75.9 + j 10.1を与えます。なお波長による違いは、純水の場合高周波数側で複素誘電率の虚部が大きく、侵入厚さが小さいため均一加熱が難しくなることが知られています。

NaCl水溶液の誘電物性は上記の式でモデル化します。上記の式の右辺第1項は周波数が無限大の場合の誘電率の実部、第2項はDebye分散モデル、第3項はDrude分散モデルを意味します。物理的には周波数無限大の誘電率の実部は1ですがモデル定数としては別の値を与えます。第2項のDebye分散モデルでcole-coleプロットの半円上の値をモデル化し、第3項のDrude分散モデルで半円から発散する部分のモデル化を行っています。

この例では分散モデルの線形和で誘電率をモデル化していますが、周波数と溶液の組み合わせ次第で1つの分散モデルでモデル化できる場合も少なくありません。NaCl水溶液はちょうど1~5GHzの範囲で大きく物性が変化するためマイクロ波加熱のシミュレーションでは上記の様に分散モデルの線形和が必要になるわけです。

境界条件と出力の設定

境界条件と出力の設定

今回の例題では境界条件の設定はキャビティの壁面が解析領域境界面に等しい面は金属ですから設定は自明です。なお導波管でマイクロ波を照射するモデルの場合、電磁波の進行方向と反対側の境界条件は吸収境界条件を設定します。

この時、PML(Perfect Matched Layer)はその名の通り、入射するマイクロ波に対して完全に整合が取れてかつ損失の大きい層(Layer)を用いるので実質的なメッシュ数の増大を伴います。多くの場合PMLは6~12層程度のLayerを用いるので、これを含めてメッシュ数が過度に増大しないように設定する必要があります。

PMLは一般的な手法では最も精度が良いため、多くの研究で用いられていますが、計算時間の増大を伴うため必ずしも第一選択肢として考える必要はありません。特にキャビティ内部の解析の場合、MUR1でも比較的良好な特性が得られます。一方でアンテナ解析などで遠方界を求めるような解析ではPMLの使用が一般的です。

また時間平均された加熱量分布はソフトウェアによってはデフォルトの設定では出力されません。加熱量分布は「損失」または「SAR」などの変数名で設定する場合もありますので注意してください。

シミュレーション結果

シミュレーション結果

シミュレーション結果の内、代表的な断面の加熱量分布を上の図に示します。純水の場合は電磁波が内部まで浸透し容器の中心部で加熱量が大きくなっていることが分かります。また水は誘電率が高いために水内部で複数の定在波が分布していることも確認できます。

なお数cm~十数cmの円筒型の容器に入った水を2.45GHzのマイクロ波で加熱した場合、容器中心部で加熱量が大きくなるのは円筒がレンズのように振る舞うためです。

NaCl水溶液の加熱シミュレーション結果は特に容器の近傍と水の表面で加熱量が大きく純水の場合と大幅に異なります。これは2.45GHzではNaCl水溶液の電気伝導が始まり、水に入射した電磁波は直ちに損失に変わり内部には浸透できない現象を再現しています。

NaCl水溶液の物性は前述のDebye分散モデルとDrude分散モデルの線形和でモデル化しましたが、この電気伝導に関わる部分はDrude分散モデルでモデル化しています。今回のNaCl濃度は海水程度ですが、もし海水をマイクロ波加熱する場合には純水とは全く異なる物性を持つことに注意が必要ということになります。

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