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Maxwell方程式が仮定していること

【電磁波解析と仮定】

Maxwell方程式とFDTDの支配方程式

Maxwell方程式

(eq.1.b)と(eq1.d)に着目し構成方程式(eq.2.a)~(eq.2.c)をそれぞれ代入して時間微分の項を左辺、それ以外の項を右辺にまとめると一般的なconventional – FDTD法の支配方程式である(eq.3.a), (eq.3.b)が得られます。

FDTD法の支配方程式

この式の導出はほとんどすべてのFDTD法による電磁波解析に関する書籍で取り上げられています。勿論、実用的に妥当な導出で問題はないですが、導出過程に様々な仮定が暗黙の裡に存在しています。

この章の前半ではこの暗黙の仮定を一つ一つ確認することで、FDTDシミュレーションを研究で自信をもって活用するためのポイントを把握します。「マクスウェル方程式自体の仮定」、「分極に関する仮定」、「物性に関する仮定」、「FDTD法に関する仮定」の4つに分けて説明を進めます。

マクスウェル方程式が仮定していること – 1

マクスウェル方程式が仮定していること

マクスウェル方程式は巨視的な電界\bm{E}及び電束密度\bm{D}、磁界\bm{H}、磁束密度\bm{B}の空間と時間における関係を示しています。つまりマクスウェルはこれらの関係を巨視的な事実から見出したものと考えられます。

マクスウェル方程式が王立学会で発表されたのが1864年のことです。周期表の元となった考え方をロシアのメンデレーエフが提唱したのが1869年ですからマクスウェルの頭の中には周期表のことはなかったはずです。電子の実証的な発見である減圧ガラス管内での放電を行いガラス管が蛍光を発するのが陰極から出る何らかの放射線が原因であるとヒットルフが発表したのが1869年、J.J.トムソンがその放射線の電荷と質量を計測したのが1890年代です。

マクスウェルの時代には電気と磁気は実証され研究されていましたが、電子はその存在に気づきつつある時代で電気と電子がまだ今ほど密接につながっていなかったのです。つまりマクスウェル方程式は電子やイオンを一切語っていないのです。そのためconventional – FDTDの(eq.3.a)と(eq.3.b)は電子運動の把握が必要な現象、例えばマイクロ波による放電、パーコレーション、周波数分散、分極の遅れなどを扱うことが出来ません。

参考: https://www.nichias.co.jp/research/technique/pdf/333/parcoration.pdf

マクスウェル方程式が仮定していること – 2

マクスウェル方程式が仮定していること

電磁波が物質を透過するとき損失があれば、エネルギーは熱に変わり物質を加熱します。この現象はマクスウェル方程式のどの項で表されているでしょうか?正解は(eq.1.d)のIであり対応する(eq.3.a)の右辺第1項です。マクスウェル方程式では損失は電流が流れた時の抵抗による損失として表されます。

マイクロ波に代表される電磁波が電流を流さない誘電体を伝搬する場合はどうなっているのでしょうか?その損失は誘電損と呼ばれその大きさは複素誘電率の虚部ε”で表されます。conventional – FDTD法ではε”を用いて損失として等価となるσ=2πfε”ε0を用いて損失を考慮します。電流の損失と誘電損失は本質的に異なる現象ですが、共に量的に電界の2乗に比例するのでこのような扱いが可能なのです。

またマクスウェル方程式は電界と磁界に対して非対称な式になっています。これは電荷には単電荷が存在するのに対して、磁界は双極子しか存在しないという記述がされているだけではありません。

(eq.1.b)と(eq.1.d)を比べると電荷密度の時間変化に電流があるのに対し、磁束密度の時間変化には電流に相当する項はありません。これは「磁流」という物理現象が存在しないためと説明できます。電界の損失は電流の項で表されていましたが磁界の損失は表す項がありません。特定の条件の金属粒子は磁界で加熱できることが知られており、電磁波で磁界が損失する現象は実際に存在します。これらをシミュレーションする場合は(eq.3.b)に上のようにσhを加えた形の式を用います。

マクスウェル方程式が仮定していること – 3

マクスウェル方程式が仮定していること

物質の誘電物性ε’とε”は周波数に大きく依存することが知られています。この考慮は、後述する有限早さの分極を考慮するで紹介します。またε’とε”は物質の温度によっても変化します。しかしマクスウェル方程式と構成方程式には温度Tは含まれません。

電磁波で発生する熱による温度変化は物質の誘電物性を変化させますがこの考慮はマクスウェル方程式ではできません。セラミックの焼成プロセスなどではこの考慮は非常に重要ですが、電磁波解析→温度解析→電磁波解析→温度解析→…の繰り返しを行い電磁波と温度を連成させる必要があります。

また一般的に流布している「誘電物性」は温度が明記されていないものも多く、解析で採用する際に注意が必要です。

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