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分極の振る舞いに関する仮定

【電磁波解析と仮定】

分極の振る舞いに関する仮定

構成方程式(eq.2.a)~(eq.2.c)は時間変化の項を含みません。例えば電束密度と電界の関係を示した(eq.2.b)は電束密度が電界の値に対して、誘電率を比例定数として瞬間的に必ず比例することを表しています。

電磁波の周波数が十分低く、分極が電界の変化に対してついていける場合は妥当なことは想像できます。つまり上図の「構成方程式が描く素早い分極」を記述しています。

多くの誘電体でこの仮定は近似的に妥当なのですが、液体では少し事情が異なります。液体の場合は分子の電気双極子に基づく配向分極はマイクロ波帯で電界の変化に対して遅れを生じます。この遅れがある程度大きくなるとシミュレーションでも「遅れなく」の仮定が成り立たずこれを考慮する必要があります。(後述するDebye分散)

イオンや電子などの荷電粒子による分極は配向分極に対して圧倒的に応答が早く、イオン溶液や金属ではその量が大きな値になります。もし分極が電界の変化を打ち消す程度に大きくなると、電磁波は伝搬できなくなります。この状態は大量の自由電子をもつ金属で特徴的ですが、イオン溶液の場合も低周波数領域やマイクロ波帯でこのような状態に近づきます。

(eq.3.a)、(eq.3.b)に基づくconventional – FDTD法は上の図で示したように分極が「遅れなく」、「電界変化を打ち消さない程度」であるという仮定を含んでいます。金属や導電性を示すイオン溶液の場合は以下に示すRC法を用いてモデル化するのが一般的です。

有限速さの分極を考慮する

有限速さの分極を考慮する

時間に対して有限の速さの分極をモデル化するためにFDTD法ではRC法(Recursive Convolution scheme)が使用されます。この方法は電束密度を時間領域の畳み込み積分で求め、この電束密度の式をマクスウェル方程式に代入して(eq.3.a)に替わる有限速度の分極を考慮した式を求めます。

(eq.6)は(eq.3.a)の右辺第1項-σ/εEが(eq.5)に入れ替わりその離散表現が(eq.6)の右辺第1、第2項で表されています。なお電気感受率Χが0の時、つまり分極がないか、分極の応答に遅れがない場合は(eq.6)と(eq.3.a)は全く同じ式になります。

またこの手法を用いたFDTD法をRC-FDTD法と呼ぶこともあります。更にRC-FDTD法の時間精度を向上させたPL(Piecewise Linear)RC-FDTD法も提唱されていますが、ほとんどの場合RC-FDTD法で十分な解析精度が得られます。

極性分子やイオンの動きを考慮する Debyeモデル

極性分子やイオンの動きを考慮する Debyeモデル

液体の誘電特性はマイクロ波帯で非常に強い周波数依存性を持ちます。これは原子分子の双極子が電界に対して応答する配向分極が比較的遅く、電磁界の変化に対して遅れを生じるためです。

Debyeモデルでは物質の電界変化に対する分極を配向分極と変位分極に分けて考えます。上の図で分極を示す点線が垂直になっている部分が変位分極に相当し、曲線部分が配向分極です。

イオン溶液の場合、遅い配向分極も低周波数の場合には電界の変化についていくため、物質としては導体に近い特性を示します。周波数が高くなるにしたがって、イオンの運動は電磁界の変化に対して遅れ始めるので誘電体的な挙動を示し始めます。

マクスウェル方程式では前述した通り、「電子」や「荷電粒子」あるいは「配向分極」のことは考慮していませんから、そのままの形ではイオンの電磁界に対する応答を考慮したシミュレーションは行えません。

電子の運動を考慮する Drude, Lorentzモデル

電子の運動を考慮する Drude, Lorentzモデル

イオン溶液は高周波数では前述のDebyeモデルでその周波数依存性をよくモデル化出来ますが、低周波数になると分極の元となる荷電粒子としてのイオンの運動が電磁界の変化を打ち消すほどに大きくなりDebyeモデルではモデル化できません。

このような周波数領域では荷電粒子が電界の変化を瞬間的に打ち消してしまう状態をモデル化したDrudeモデルが使用されます。Drudeモデルは本来的には可視光領域の金属自由電子を中心モデル化されたものですが、低周波数領域で導電性があるイオン溶液のモデル化でも用いられます。

なお可視光領域の金属自由電子は原子の正電荷によって束縛されるので、これをモデル化する場合にはLorentzモデルを使用します。Lorentzモデルでモデル化される現象はマイクロ波帯ではほとんどありません。但し、物性変化を分散モデルで表すために「便宜上」用いられることがあります。

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